夏が始まる
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


今年の梅雨は
結構なお湿りと記録的な大暴れをして、
そろそろ収束しようとしておいで。
近畿地方もやっとの梅雨明け宣言がなされたそうで、
関東地方やその北も相次いで梅雨明けが発表されそうな趣きで。

 「ああ、そういや まだだったんですねぇ。」

何てのか、振り返れば色々あったなぁって思い出せもするんですが、
次から次にやっぱり色々あったんで、
どんどんトコロテンみたいに押し出される格好で、
前の事件とか 記憶から押し出されちゃうんですよねぇと。
卓袱台の上へ新聞を広げて、
鹿爪らしく“う〜ん”なんて唸っている平八で。
そういや大粒の雹が降って通りを埋めて大騒ぎしたこともあったよね、
雷が落ちた晩も多かったし、
梅雨のというより、
台風とか南下して来た寒気団の影響からっていう
豪雨や雷雨が多かったんだしと。
今日のお天気を検索ついで、
六月七月のカレンダーをタブレットに呼び出して、
雨マークの多さに
うんうんと何かの教官みたいな頷きを見せているのが、

 “ああいうところは、まだまだ幼くて愛らしいのだがの。”

好奇心旺盛で、反射も素早くて。
面白そうなことへの感度は鋭敏で。
仲のいいお友達と一緒に、今日はどこへ出掛けて何しようかなんて、
可愛らしいことを算段しているようなら問題はないのだが、

 “サマーバーゲンという広告を見ているのなら良いのだが。”

少し大きめの広告バナーが ちかちか点滅しているその画面のメインは、
無人の寺から文化財級の仏像や蔵物が持ち出される
何とも卑怯な盗難事件の続報だったりするものだから。
またぞろお嬢さんたち三人だけで
何かおっかない荒ごとに飛び出してくよな
危ない算段でも固めているのではなかろうかなんて。
ごくごく普通のご家庭ではまずは案じたりしなかろうことを、
さりとて迂闊に訊いては薮蛇になりかねないしと
その分厚い胸の内にて
困ったように転がしておれば、

 「あ、ゴロさんっ。今朝のご飯は何ですか?」
 「うむ。デコ弁にならって、
  丸むすびを薄焼き玉子やそぼろで飾ってみたぞ?」

運ばれた角皿には、
茶巾寿司みたいに淡い黄色の卵焼きでくるまれた枝豆ご飯のや、
甘辛に煮込んだそぼろをぐるりとまぶしたの、
桜色のでんぶを桃みたいにまぶしたのと、
カラフルな丸いおむすびが愛らしくも積み上げられてあり。

 「わあ、美味しそうだし可愛いvv」

タブレットをひょいと退けると、
いただきますと嬉しそうに手を合わせる無邪気さを、
満遍なくもっててほしいなと、
時に勇ましいお嬢さんなのへこそりと苦笑してしまう
八百萬屋店主の五郎兵衛さんだったようでございます。





     ◇◇



窓の外では、既に陽も昇っての、
明るい青空が瑞々しい梢の隙間から覗いており。
耳を澄ませばしゃんしゃんという蝉の声も聞こえるほど。
食事の支度や庭の手入れなどに従事する
働きものな顔触れが既に起き出している関係で、
あちこち窓も開けられ、
屋敷の中の空気は清かなそれへと入れ替えられつつあって。
それとは別口、かりかりかりとドアを引っ掻く音がしてから、
かちゃりと薄く開いたは、とある居室の扉。
サイドボードやクロゼットにはシックな調度を取り揃え、
落ち着いた印象にまとめられた部屋の奥には寝室があり。
隙間からスルリと忍び入った存在が、
足音もないまま とことこと軽快に足を運んだのは奥の間の寝台の傍らで。
小さなその身には結構な高さであったろに、
くっと一瞬、身を縮め、
次の瞬間にはもう、その姿がベッドの上へと移っている身軽さよ。
ふかふかな寝具が大荒れの海のように波打つ中を、
にぃみぃと甘えるように鳴きつつ進めば、

 「……くう。」

もそりと動いた振動と共に、しなやかな腕が伸び、
大胆不埒な侵入者の、
柔らかな毛並みをもしゃりと撫でる手の麗しいこと。
まぁーうと甘いビブラートつきのお返事を返したメインクーンさんへ、
苦しくはないものか
羽根枕へお顔をほぼ埋めるという格好、
うつ伏せになって寝ていた金髪のお嬢さんが、
真っ赤な双眸からの眼差しを向けて“おはよう”とご挨拶。
学校は金曜の終業式から夏休みに突入しており、
それより前からもお休み同然という態勢だったため、
すっかりとお寝坊モードの体内時計が定着している久蔵お嬢様で。

 ああ、蝉の声が聞こえるな。
 今日も暑いのかなぁ。
 バレエのレッスンは今日は休みだったはずだけどな。
 確か来週末には 舞台でのゲネがあるんだっけか?
 (報道陣向けのプレ公演のこと)

う〜んん…っと、寝たままの背伸びをしておれば、
その背中へのしっと乗っかるくうちゃんで。
長毛種の猫さんだけに、
その温みがじんわり伝わるのもあっと言う間であり。

 “…アイスクリーム、食べたいなぁ。”

チョコミントとストロングベリーとレモンシャーベットのトリプル…と、
いやに具体的に思い浮かべたのは
寝しなに見ていた番組で特集されていたから。
サッカーのW杯があったせいか、
濃青や緑に黄色というブラジルカラーの
期間限定シャーベットが紹介されていて、
あれ美味しそうだねと
チャットで盛り上がっていたのを思い出してのこと。
朝っぱらからそんな食いしん坊なことを思うお嬢さま、
紅ばら様なんてロマンチックな呼ばれようも形無しかと思いきや、

 ♪♪♪♪〜♪♪♪

枕元へと置いてあったスマホが鳴って、
がばちょと身を起こした反射のまあまあ素早かったこと。
無防備に背中にいたくうちゃんが
勢い余って転がり落ちかけたほどだったが、
それを片手で抱きとめたところもまた、素晴らしい反応であり、

 「……………ん。…………う〜。
  うん。…………………んん。//////」

何とも音無しな応対ながら、これで十分相手には通じているらしく。
白皙の頬にあてたツールを相手の手だとでも思っているかのような、
それはそれはまろやかな笑みを見せておいで。
体調管理と、目覚ましを兼ねてのおはようコール。
くうちゃんとそれから、主治医のお兄さんとに構われて、
今日も御機嫌なお目覚めだった、
久蔵・ヒサコ・紅ばら様だったようでございます。





     ◇◇



個性的な椿が佇んでいるかと思えば、
槙や松の、それは瑞々しい濃緑の梢が朝一番の陽を透かして、
ちらきらと降りそそいでいるお庭の一角。
浅い縹(はなだ)の袴と白い道着という
いかにも凛々しいいで立ちのお嬢さんが、
鋭い所作にて竹刀を何度も振り下ろしておいで。
白い額にはうっすらと汗がにじみ、
きりりと引っつめに結って束ねた金の髪が、
切れのある動作に添うて撥ねたり躍ったりするのがまた、
若いお嬢さんの青い勇ましさを清かに匂わせ、
何ともすがすがしくってならぬ趣きで。
それは幼いころから、
父上の刀月画伯のモデルをこなすのと並行させて、
こちらの勇ましい鍛練も、
当たり前のことのよに馴染んでおいでの、
文武両道を地でゆく大和なでしこさんであり。
特に何かに触発された覚えもないらしく、
これもまた例の、
前世の記憶がもたらした代物だというのだろか。

 「哈っ!」

剣道部の主将となる前から、日課としている素振りは、
そのまま当家の皆様の時計の代わりにもなっており。

 ああ、もう柔軟を終わられた。
 今日は気合いのお声に張りがおありだねぇ。
 そういや、インターハイっていつからだっけ?

などなどと、
麗しくも勇ましい七郎次お嬢様の奮闘ぶりへ、
家人一同で見ほれておいで

 …ではあれど。

規定の数だけ素振りを終えて、
傍らの木陰に置いていたタオルを手にすると、
汗を拭って ふうと一息つく。
スポーツドリンク用のボトルに手を伸ばし、
ごくごくと口をつけたそのまま、
ふと 気がついて手を延べたのは、
それら一式と一緒に置いてあった彼女のスマホで。
着信がありましたよとメールの到着を知らせる点滅へ、
誰からかなと画面を覗いたそのまま、

 「………っ。//////////」

素振りの後だからという以上に、
その頬が真っ赤になったのは 一体何故なのか。
こんなささやかなことへの反応へ、
なのに一瞬で判ってしまえたは、
きっと此処にはいない彼女の親友たちのみに違いなく。

 えええ、どうして
 何でどうして、と、

滅多にないことゆえ、気持ちの上では大きに困惑しつつも。
そのくせお顔は正直なもの、
真っ赤な頬に相応う含羞みを満面にたたえつつ、

  かんべえさま と

ちょっぴり可愛らしくも 平仮名で設定されてあったメールへ、
直接の会話をする訳でもないというに、
ドキドキしつつ向かい合う、
純情可憐な剣道少女の白百合さんだったそうでございます。





    〜Fine〜  14.07.22.


  *いやはや、学生さんにもいよいよの
   大手を振って遠出できる夏休みですねvv
   と言いつつ、私はあんまり旅行とか行った記憶がありませんで。
   若いころからダラダラしとったんでしょうかね。(う〜ん)
   三華様たちにも活動的な夏の到来ですが、
   まずは久々に、愛しいお人との想いの交歓なぞvv
   でもどーせ この夏も暴れるんでしょうね、うん。(こらこら)

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